<コラム20> スケート選手はなぜ目が回らない?

フィギュアスケート選手はなぜ目が回らない?

4回転ジャンプ、トリプルアクセル、高速スピン…。フィギュアスケート選手が氷上で繰り広げる華麗な回転技の数々。圧巻の演技に息をのみながらも、こんな素朴な疑問を抱いたことはありませんか。

 「あんなに回転して、目は回らないの?」

同じようなことはバレリーナや最近ではストリートダンスでも見られます。

実際、目は回らないのです。プロのフィギュアスケート選手は回転椅子に5分間座ったままでも、まったく平気だそうです。もちろん、普通の人なら1分もしないうちに目が回ってしまいます。

 そもそも私たちの体には、いろいろな姿勢や動作の最中でも、ふらついたり、転んだりしないようにバランスを保つ機能が備わっています。この機能を担うのが、耳の奥の内耳にある三半規管です。半規管は、前半規管・後半規管・外側半規管の3つがあり、まとめて三半規管と言われています。半規管は3つの中空のリングから構成されていて、内部は内リンパ液で満たされています。前庭の近くに膨大部と呼ばれるふくらみがあり、そこには感覚毛を持った感覚細胞があります。感覚毛の上にはクプラと呼ばれるゼラチン状のものが載っています。内リンパが動くことによって、クプラが押され、感覚毛が曲がり、感覚細胞が興奮します。その興奮が神経に伝わり、脳にある脳幹、さらには運動機能を司る小脳へと伝達されます。この情報と視覚の情報から体が回転したと認識します。3つの半規管はそれぞれ直角に交わっていて、X軸・Y軸・Z軸の様に立体的な3次元空間で回転運動の位置感覚を感知します。頭部が回転すると、内リンパはしばらく静止したままなので、感覚毛が曲がって信号が脳に送られ、頭が回転したと認識されます。回転が続くと半規管とリンパ液も一緒に回転してしまうので、体の回転が止まっても今度はリンパ液の回転がすぐには止まらず、誤った信号を脳へ送ることになり“目が回った”状態になります。

それでは、なぜフィギュアスケート選手は目が回らないのでしょうか? 一般に、回転椅子に座っている人が回転すると、前庭動眼反射(頭が動くときに姿勢を安定察せるための眼球運動で、頭の動きとともに眼球が反対方向に動く。例えば首を右に回すと、眼球は左に動く。これにより、視覚対象を見続けることが出来る。)とめまいが起こります。しかし、バレリーナやダンサーは回転中に特定のポイントを注視し続けることで、めまいをおこさずに姿勢を安定させていると言われており、この行動はスポッティング*と呼ばれています。フィギュアスケートやバレー、ダンスなど回転を伴う運動ではスポッティングができるようにトレーニングが行われ、それによって目が回らないようになります。しかし、フィギュアスケート選手が高速スピンをする場合などは、スポッティングだけでは説明できません。それ以外の理由としては、フィギュアスケート選手は、身体の中心軸を意識してスピンを行います。この中心軸を保つことで、目が回る感覚を最小限に抑えることができます(身体の中心軸の意識)。また、長年の練習により、フィギュアスケート選手はバランス感覚を高めています。スピン中に身体がどのように動いているかを正確に感じ取ることができるため、目が回る感覚を軽減することができます(バランス感覚の鍛錬)。しかし一番大きな理由は“訓練効果”です。来る日も来る日も回転練習を繰り返すことで、4回転ジャンプも高速スピンも、日常生活動作と変わりがないと脳が判断するようになってきます。訓練によってフィギュアスケート選手が回転したときも、同じように情報は小脳に伝わりますが、その情報を打ち消すような反応が起こります。GABA(ギャバ)という神経伝達物質が小脳から脳幹へ分泌され、神経の興奮を抑えてしまうのです。この結果、眼振が起こらず、目も回らないというようになります。

しかし、意外なことに、そんなフィギュアスケート選手でも目が回ることがあります。実験では、いつもとは逆回りに回転したときです。通常左回りで回転している選手が、回転椅子で右回りを体験したところ、1分もたたないうちに眼振が起こり、目を回してしまったそうです。逆方向に回転すると訓練効果がないため、小脳からの抑制が効かないのです。ただ、例外もあって、トリノオリンピックで金メダルを獲得したロシアのプルシェンコ選手は、右でも左でも難なく回転できるそうです。もちろん、どちらも訓練効果によるものです。ただし、この訓練効果はトレーニングをやめるとすぐに衰えます。スケート選手が現役を引退するとこれまで目が回らなかったのが、久しぶりに回転すると目が回ってしまうということもあるようです。実際、浅田真央選手は最近のスペシャルトークショーで「すぐ酔っちゃう。船酔いとかもすぐしちゃうし。海とかダイビングとかも全然…」と説明。普段も練習期間が開いてしまうと「急にスピンすると気持ち悪くなっちゃう」ため、アイスショー閉幕後の最初の練習は「本当に気持ち悪くなっちゃって、その日はずっと寝てました…」と語ったそうです。フィギュアスケート選手は目が回らないように本当に頑張って訓練しているのだなあと思います。

結論から言うとフィギュアスケート選手がスピンしても目が回らないのは、日々訓練をしていているからという事になりそうですね。

*スポッティング(英語: Spotting)は、ダンスでターンを行う際の技法で、頭と視線の方向を可能な限り一定にすることによって、めまいを防ぎ、身体の制御を失わないようにするためのテクニックである。

スポッティングは、ターンの際に頭部を身体とは異なる速度で回転させることによって行う。身体はほぼ一定の速度でスムーズに回転するが、頭部は周期的に、身体より素早く回転させて止める動きを繰り返す。その際、視線を1箇所(スポッティングポイント、または単にスポットという)に固定する。ライトなどの適当な目標があればそれに視線を合わせるが、適当な目標がない場合は頭部を常に決まった方向(たとえば客席正面)まで回転させるようにする。ペアで踊る場合には、パートナーをスポッティングポイントとすることがあり、その場合はスポットが移動することになる。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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