<コラム13> 小児のめまい(その1 小児反復性めまい)

~子供が当然目が回ったり、倒れたりする。けれども、しばらくしたらケロッとしている。それって、小児反復性めまい(小児良性発作性めまい)かも?~

 

小児のめまいは頻度が低く、統計によれば、9歳以下の子供の有病率は0.6(人口千対)(男:0.1、女0.5)で、80歳以上の高齢者の90以上よりも明らかに少ないです。めまいの症例の中で15歳以下の子供の割合は全体の1.7~6.4%、平均して3.4%ほどです。年齢別に見ると、5歳以下の子供の割合は約10%、6~10歳では40%、11~15歳では50%と、年齢が上がるにつれて増加傾向にあります。

子供のめまいでよく見られる疾患には、小児反復性めまい、小児前庭性片頭痛、起立性調節障害(OD)などがあります。内耳性のめまいでは、突発性難聴、遅発性内リンパ水腫、奇形、外傷などが多く見られ、一方で成人では一般的なメニエール病や良性発作性頭位めまい症(BPPV)は少ないです。中枢性のめまいでは、てんかんや外傷が一般的で、腫瘍も比較的に多く認められます。

子供の場合、年齢ごとに分けて、めまいや平衡障害を理解することが重要です。

乳児期にはめまいよりも、運動発達の遅れ、歩行障害、転倒の傾向、難聴などから、小脳奇形や内耳奇形が診断されることがあります。

幼児期では中枢性のめまいに気を付ける必要があります。めまいの後に、意識消失を引き起こす側頭葉てんかんや脳腫瘍が見つかることがあります。小児の脳腫瘍の60%以上は小脳に発生し、平衡障害を引き起こすことに気を付けることが必要です。この時期は急性小脳炎、ムンプス(おたふく風邪)、ハント症候群など感染症によるめまいが発生しやすい時期でもあります。また、小児反復性めまいが頻発する時期でもあります。

学童期になると、成人と同様にメニエール病やBPPVなどのめまいが増えつつ、起立性調節障害の頻度も高くなります。この疾患は心因性のめまいとも関連があり、診療には精神医学的、心身医学的アプローチが必要であり、学校や保護者との協力も重要です。また、この時期に小児反復性めまいから前庭性片頭痛が続発することがあります(表)。

 

表 時期別の小児のめまい・平衡障害

〇新生児期(生後0日~28日未満)

出生外傷、先天奇形(内耳、小脳、心など)、遺伝子異常

〇乳児期(生後1年未満)

運動・発達障害、内耳奇形、先天性眼振

〇幼児期 (生後1年~小学校就学まで)

頭部外傷、脳腫瘍、急性症脳失調症、小児反復性めまい、小児良性発作性斜頸、心疾患、

流行性耳下腺炎、前庭水管拡大症

〇学童期 (5~12歳、小学校に通う期間)

起立性調節障害(OD)、頭部外傷、動揺病、側わん症、顎関節症、早発脊髄小脳変性症

前庭性片頭痛、心因性めまい、有機溶剤中毒

 

 最初に、幼児期によく見られるめまいについて説明します。この時期は成人のめまいの原因となる良性発作性頭位めまい症やメニエール病はほとんど認められません。この時期に特徴的な小児反復性めまいについて解説します。

 

  • 小児反復性めまい、小児前庭性片頭痛

小児のめまいでよく見られる疾患には、小児前庭性片頭痛小児反復性めまいがあります。小児の反復性めまいについては1964年 Basser が初めて小児良性発作性めまい症(Benign Paroxysmal Vertigo of Childhood)という疾患概念を提唱し、その概念を基に国際頭痛分類第2版では小児良性発作性めまい症(Benign Paroxysmal Vertigo of Childhood:BPVC)が定義されました。その後,国際頭痛分類第3版では良性発作性めまい症(Benign Paroxysmal Vertigo:BPV)と名称を変えました。しかし,これらの疾患概念ではめまい発作と片頭痛の関係にあいまいな部分が残っており、またこれとは別に良性反復性めまい(Benign Recurrent Vertigo:BRV)という疾患概念もあり、混乱があったことから、2021年にバラニー学会(Barany society)と国際頭痛学会が協働してこれまで混乱のあった小児の反復性めまいの疾患単位を小児前庭性片頭痛(Vestibular Migraine of Childhood:VMC)と小児反復性めまい症(Recurrent Vertigo of Childhood:RVC)に整理し、その診断基準を制定しました。これらの疾患はまだ国内で十分に知られておらず、病院に受診しても原因不明と診断されることがあります。しかし、正しい診断と説明を受け、深刻な病気ではないことを理解することで、症状が軽減されたり、場合によっては解消されたりすることがあります。基本的には成長とともに治ることが多いため、不安を抱えたまま放置せず、症状を確認し、必要なら医療機関を受診し、適切に対処することが大切です。

 

1)小児反復性めまい

症状と発症年齢: この疾患は5歳以下で見られ、数秒から数分間続く「ぐるぐる回る」などの回転性めまいが特徴です。

特徴的な点: 発作が短時間でおさまり、周囲の人は驚きますが、意識は失われません。また、片頭痛が伴うことがよくあり、発作後には傾眠傾向(うとうとして眠りそうな状態)が見られることもあります。

診断の難しさ: 小児科で受診してもMRI・MRAや脳波で異常が見つからないことが多く、診断が難しい場合があります。

好発年齢と予後: 発症は2~4歳で頻度は幼少期のめまい疾患の中で11~25.5%とされ、一般的には予後が良好で成長とともに消退することが多いです。

 

2)小児前庭性片頭痛

特徴と症状: 日常生活に支障を与えるほどの回転性めまいや浮動感と片頭痛が特徴で、めまいは自発的または刺激によって誘発されることがあります。

片頭痛様症状: 頭痛は中程度から高度で、運動や光、音に敏感になります。視覚的な前兆として閃輝暗点が見られることがあります。

発症機序: 小児反復性めまいからの移行例もあるとされ、前庭片頭痛の発症年齢は11.7才で、めまいの持続時間が通常よりも長いことが特徴です。

予防と治療: 予防には片頭痛予防薬が使われ、発作にはトリプタン製剤やエルゴタミン製剤が利用されます。

これらの疾患は適切な診断とケアが必要です。特に小児反復性めまいは成長とともに自然に改善することが期待されますが、症状が強く続く場合や心理的な要因が絡む場合には、医師と相談し、適切な治療やケアを受けることが重要です。

 

 

 今回のコラム「小児のめまい」のはじめとして、子供がめまいを訴えた時の対応について説明します。

 

子供がめまいを訴えた時

子供がめまいや腹痛を訴えた場合、まずは安静な場所で休ませましょう。特に吐き気や嘔吐があるときは、食べ物を無理に与えず、子供が食べたいときに食べさせてあげるだけで十分です。もし症状が収まってくるようなら、十分な休息が役立ちます。

しかし、症状が長引くか、ひどい場合は、医療機関を受診しましょう。医師が適切な治療法や必要な処置を提案してくれます。また、同じ症状が繰り返す場合は、他の潜在的な疾患がある可能性があります。そのため、一度病院で検査を受け、正しいアドバイスや治療を受けましょう。

ぜひ、めまいセンターを受診してみてください。

 

小児のめまいの診断フローチャートです。参考にしてください。

 

 

 

 

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