中耳炎の手術中耳炎の手術について
ここで皆様に知って頂きたいことは、中耳炎の手術内容です。
中耳炎を治すには、乳突洞という洞窟を一部開放して、中の膿や脹れた粘膜を取らねばなりません。
手術でこのことを全うしなければ中耳炎は完治しないのです。
一方、穴の開いた鼓膜ですが、ここを治すには細心の注意が必要です。
鼓膜の処理が不完全であるなら、術後の聴力増進は期待できません。
聴力を保存・増進するには、鼓膜をなるべく元の状態に戻すことが最も大切なことです。
その生理的、構造的形態を傷つけ、あるいは変形してはならないのです。
それは、耳の微細な構造は、音を聞くために最も合理的な構造をしている、と想像できるからです。
しかし、生来の構造を傷つけず、残る構造物をできるだけ利用することが、外耳道鼓膜保存型鼓室形成術の利点なのです。
鼓膜は本来、一枚の膜でできているのではなく、主として3枚の板が重なってできています。
それは丁度べニヤ板の様になっており、耳の穴、外耳道の奥に刻まれた骨の溝、鼓膜溝にきちっとはまっているのです。
牛乳ビンのフタがビンにきちっとはまっている様子を想像して下さい。
さらに、鼓膜の振動を内耳(神経)に伝える小さな骨(耳小骨)、に繋がっておりますが、鼓膜についているだけで無く、ここにも微細な構造があり、鼓膜と共に音を伝えているのです。ここも傷つけてはならないのです。
それでは、これらの問題をクリアーするためにはどうしたら良いのでしょう?
そして、実際に当たって、穴の開いた鼓膜を塞ぐには何を利用したら良いのでしょうか?
外耳道鼓膜保存型鼓室形成術
鼓膜穿孔があっても聴力が少し悪い・・・時に耳漏が出ることがある、くらいの軽い状態の中耳炎は、通常この手術によって機能を元に戻すことができますが、この程度で手術をして治したいと考える方はむしろ少ないと思います。
しかし、病気を治す原則、早期発見・早期治療から見ると、中耳炎を治すにはこの時期に上記を踏まえた適切な手術を受けることが最も有効な手段なのです。
対処が遅れると病状は進行します。この程度につれ、手術後の機能回復が左右されることもあります。
慢性中耳炎の主病変が乳突洞にある以上、中耳炎の根治を目指す手術の場合、当院では乳突洞を開放することを前提としております。
したがって、慢性中耳炎の場合、鼓膜穿孔のみふさぐ手術は当院では行っておりません。
耳の病気、慢性中耳炎は経過が長く、本人も気付かぬうちに進行し、やがて全身に影響を及ぼすようになります。
病気が確立すると完治するには手術しかありません。上記を踏まえ、適切な方法でできるだけ早期に手術を受けることをお勧め致します。
大切なことは、手術の際、聴力を落とさないよう耳の機能構造を可能な限り保存するということです。
なお、当院ではこの手術術式を「外耳道鼓膜保存型鼓室形成術」と呼んでいます。
鼓膜形成術と鼓室形成術
鼓膜形成術
鼓膜形成術は、中耳炎由来でない鼓膜外傷や幼少時に急性中耳炎の後遺症などで、鼓膜穿孔のみの症状であるものに行われます。
鼓室形成術
鼓室形成術は、慢性中耳炎に行われるのが通常です。
基本的な手術方法はほぼ同様の手順ですが、乳突洞を削開するかしないかが大きな違いです。
いずれにしても、前述のように耳の構造を保存、機能を損なわないことが重要です。
それ如何によって、術後の経過が左右されると言っても過言ではありません。
鼓膜外耳道保存型鼓室形成術のポイント
さて、当院の主張する鼓膜外耳道保存型鼓室形成術をまとめてみますと、そのポイントは鼓膜と乳突洞の処理にあります。
まず、鼓膜穿孔の修復は、鼓膜を形作る3層の、最も外側の表皮のみ剥離します。
そして、他の2層との間に筋膜を挟む方法を用います(サンドイッチ法)。
そのために、剥離する外耳道の皮膚も保存に努めます。
それは、外耳道の皮膚の生理的働き、耳あかを外に出す、という大切な機能を保全するためです。
この方法での鼓膜処理では、鼓膜と外耳道、鼓膜と耳小骨の関係を傷つけずに保存できますので、治癒後の鼓膜は生来の鼓膜とほぼ同等となり、術後聴力を確保、増進できるのです。
一方、乳突洞削開ですが、中耳炎の根源が乳突洞にある以上、削開・病巣除去・開放をしなくてはなりません。
そのため、前述の鼓膜、外耳道の形態、機能を妨げないことが最重要ポイントになります。
外耳道鼓膜保存型鼓室形成術の流れ
1.三層ある鼓膜のうち、外側の表皮のみをはがします。
2.筋膜(筋肉を包んでいる薄い膜)を鼓膜に挟みます。
3.はがした鼓膜を元に戻します。
4.次に乳突洞の開放・病巣除去を行います。
術後半年後までに筋膜が鼓膜に吸収され、鼓膜が再生されます。