今回のコラムは前庭神経炎です。めまいの原因の多くは耳にありますが、その代表的なものが、良性発作性頭位めまい症、メニエール病、前庭神経炎の3つです。その中で、めまいの程度が一番激しく、長く続くのがこの前庭神経炎です。

 

<コラム5>前庭神経炎

激しいめまいが長く続き、その後もふらつきが取れない。それって、前庭神経炎かも

前庭神経炎とは、激しいめまいが長く続き、その後もふらつきが取れない状態になる病気です。前庭神経は、内耳の三半規管と耳石器からの信号を脳に伝える役割をしています。この神経の機能が、急に障害されることで発症する病気が前庭神経炎です。前庭神経は平衡感覚を保つ役割をしていますので、この機能が障害されると、めまいが起こります。原因は分かっていませんが、ウイルスの感染や内耳の血流障害が関係していると考えられています。

前庭神経炎の主な症状は、自分の体や周囲がぐるぐる回るような激しい回転性のめまいで、めまいが起こると、食事をとるのや水を飲むのも困難になって、入院して点滴治療を行うこともあります。激しい回転性のめまいは1日で治まる人もいれば、3日くらい続く人もいます。その他、特徴としては、メニエール病のように耳鳴りがしたり、聞こえが悪くなったりすることはないことが挙げられます。

 

前庭神経炎の診断のための主な検査は。①温度刺激検査、②前庭誘発筋電位検査、③ビデオヘッドインパルステスト(vHIT)の3つです。いずれの検査も前庭神経の機能を評価するもので、温度刺激検査は、片側の耳に水を入れて、めまいの起こる反応を見る検査です。通常私たちの体は、片方の耳に温水や冷水を入れるとめまいが起こるようになっています。しかし内耳や前庭神経に異常があると、めまいを感じないか、通常よりも軽いめまいしか感じないので、その原理を生かして異常を確認する方法です。前庭誘発筋電位検査は、音の刺激で生じる前庭神経の反応を首の表面に装着した電極で検知する検査で、前庭神経に異常が起こるとこの反応が消失します。vHITは、頭を動かしたときの眼球の運動を観察して前庭神経の機能を評価します。

前庭神経炎の治療は、めまいが起こっている急性期の治療とめまいが治まってからの回復期の治療の2つに分けられます。

急性期の治療では、めまいを抑えるために、炎症を抑えるステロイド薬や抗めまい薬、吐き気止めの薬を使用します。また、前庭神経の機能を回復させるために血流改善薬やビタミン剤も使用することがあります。

回復期の治療ですが、強いめまいが治まっても、体のふらつきや不安定感はしばらく続くため、平衡感覚を取り戻すためのリハビリを行う必要があります。具体的には、体のバランスを保てるようにする訓練と、目の動きを安定させる訓練とを行います。

体のバランスを保てるようにする訓練は、目を閉じて、両脚立ち、片足立ちを1分目安で行います。また、その場で足踏みをします。最初はふらついて危険を伴う可能性があるので、支えがある場所で行ったり、家族に支えてもらったりして、行うようにしましょう。

目の動きを安定させる訓練は、親指を立てて見つめながら首を左右にふります。このとき、目を左右に動かすことを意識してください。リハビリは、少しずつでも毎日行うことが大切です。また、回復期の半年から1年は、めまいセンターでの定期検査を欠かさないようにしてください。

 

前庭神経炎と似た脳の病気に注意!

前庭神経炎と似た病気には、「ワレンベルグ症候群」という病気があります。この病気は脳の一部の延髄が障害されることで起こります。初期段階では激しいめまいが主な症状で、その後にほかの症状も出てきますが、最初は前庭神経炎と誤診されることがあるようです。もし前庭神経炎と診断された後にさらなる症状が現れた場合は、注意が必要です。ワレンベルグ症候群の主な症状には、眼瞼下垂(まぶたが下がる)、瞳孔の収縮、顔の感覚が低下する、声がかれる、などがあります。また、激しいめまいが起こる前に後頭部にガツンと痛みが生じることがあると言われています。

また、小脳梗塞症の中でも,特に後下小脳動脈領域の下部小脳梗塞では,めまいと嘔気のみの症状しかないことが多く.小脳症状をはじめとする他の随伴症状を伴わないために,前庭神経炎などの末梢性疾患との鑑別が困難な場合もあり、このような症例は「偽性前庭神経炎」と呼ばれています。したがって、前庭神経炎をきちんと診断できる専門医にかかりましょう。

 

前庭神経炎チェックリスト

□突然ぐるぐる回るめまいが起こった。

□めまいは1日以上続き、その後も動いたり歩いたりするとふらつく

□めまいはあったが、耳が聞こえにくくなったりはせず、耳鳴りもない

□顔のしびれ感やろれつが回らないなどの症状はない

□めまいが起こる1週間くらい前に感冒に罹患した

 

全部の項目に当てはまれば前庭神経炎かもしれません。

「めまいセンター」を一度受診してみませんか。

ページの先頭へ

長引く症状、手術のオンライン相談はこちら