最近、年のせいか、ふらつきが多くなり、転びやすくなってきた。
病院に行っても「異常ありませんよ、大丈夫ですよ。」としか言われない。
~それって、加齢性前庭障害かも~
加齢性前庭障害
私たちの体のバランスが保たれるためには、「目から入ってくる情報」「重力や加速、回転などを感知した耳からの情報」「自分の体がどのように動いているかを感知する足の裏の感覚」の3つの情報が必要です。この3つの情報を小脳が統合し、頭と目の動きを制御して、体のバランスをとっているのです。逆に言えば、このうちのどれか一つでも調子が悪くなれば、体のバランスが乱れてしまいます。
耳の奥にある内耳には、聞こえの感覚器(蝸牛)以外に、バランスと関係している感覚器の前庭器があります。前庭器には3つの輪のようになっている「三半規管:前半規管、後半規管、外側半規管の3つ」と卵形嚢、球形嚢という耳石を含む2つの「耳石器」があります。
これらに障害が起こると「耳からの情報」に問題が生じてめまいがおこります。メニエール病や、良性発作性頭位めまい症、前庭神経炎などがこれにあたります。
「耳石器や半規管」の働きは、加齢により徐々に低下することがわかっています。ヒト剖検例(死後に解剖した例)の報告によると、末梢前庭系・前庭半規管の感覚細胞数は、70歳以上の症例において耳石器で25%、半規管で40%減少することが明らかにされています。耳石器では卵形嚢、球形嚢とも、耳石の減少、形態の変化も起こります。
それに加え、老眼や老人性白内障などによって視覚情報をキャッチする力も衰えることは避けられませんし、若い頃に比べれば足の裏の感覚も鈍くなります。そのような要因が重なり合い、高齢になるほど、明らかな疾患がなくても、体のバランスを保つ機能、すなわち平衡機能が低下するため、めまいを起こしやすくなるのです。
たびたびめまいを起こすようになれば、外出もままならなくなり、生活の質は大きく低下します。さらにめまいによって転倒し、骨折したことが原因で、そのまま寝たきりになるという危険性もあります。高齢になると骨も脆くなるため、ちょっとした転倒でも大腿骨骨折などの大怪我につながりやすいのです。そういう意味でも、平衡機能を維持することは、健康長寿を伸ばすためにも大切だと言えます。
加齢によって前庭の働きが低下するのは、感覚細胞の消失という形態上の変化が最も大きな原因なので、その働き自体を回復させるのは困難です。 ただ、小脳には前庭機能の低下を補う働きがあるため、それを鍛えることで、平衡感覚を維持したり、回復させたりすることができます。それが「めまいリハビリテーション*」と呼ばれるものです。高齢者の場合は、 小脳の働きも低下しているので、回復には時間がかかることもありますが、90歳をすぎた患者さんでも、前向きにリハビリテーションを続けたことで症状が良くなったと実感された例もあります。 めまいは心の状態も大きく影響しますので、「治したい!」という意欲を持ってリハビリテーションを続けることが大切です。
また、無理のない範囲の有酸素運動や筋力トレーニングは、平衡機能の維持や改善にも効果があります。ここで言う有酸素運動とはエアロビクスのような激しい運動ではなく軽く汗をかく程度の散歩のような運動のことです。いずれも毎日継続することが大切です。
高齢者のめまいは、脳梗塞や心筋梗塞、あるいは高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病の症状として現れていることもありますので、平衡機能の低下が気になったら一度耳鼻咽喉科を受診すると良いでしょう。
* 正確には前庭リハビリテーション(平衡訓練)といいます。めまいリハビリテーションの種類は「良性発作性頭位めまい症」の患者さんに行うものと、それ以外の原因でおこるふらつきに対するリハビリテーションなど様々なものがあります。
加齢性前庭障害のチェックリスト
□60歳以上である
□3か月以上めまいやフラフらが続いている
□転倒しやすい
□歩行がうまくできない、まっすぐ立っていられない
□1日中ふわふわ感がある
60歳以上で、4つ以上の項目に当てはまれば加齢性前庭障害かもしれません。
「めまいセンター」を一度受診してみませんか。