<コラム14> 小児のめまい(その2 起立性調節障害)

~思春期の子供が朝、起きられず、学校にいけない。それって起立性調節障害かも~

 今回は、主に学童期以後の小児にみられるめまいについてです。この時期になると、メニエール病のような大人にみられるめまいも認められるようになります。この時期の子どもめまいの原因として特徴的なものに起立性調節障害、心因性めまい、などがあります。これらについて解説していきます。

  • 起立性調節障害

子供のめまいの主な原因の一つが、年齢が上がるにつれて多くなる起立性調節障害です。

起立性調節障害は、英語では “Orthostatic Dysregulation” と呼ばれ、簡単に “OD” と略されることもあります。これは、身体の大きな部分である骨や筋肉などが発達する速さと比べて、内臓や神経系がコントロールする「身体機能」の成長が遅れるために発生します。急に立ち上がると、脳や頭蓋への血液供給が追いつかず、めまいが起こるのが特徴です。言い換えると、成長期において身体の大きさに対して内臓や神経系の発育が遅れ、急激な血液供給が脳に届かないために、めまいが起こる状態と言えます。その結果、比較的身体が大きく、身長が高い子供たちによく見られる傾向があります。軽い症状のものを含めると、小学生の約5%、中学生の約10%が起立性調節障害で、重症例は約1%です。性差は男子と女子で、1:1.5~2ほどで、やや女子に多い傾向があります。

 

症状には「大症状」と「小症状」があり、それぞれ以下のような状態が見られます。

1)大症状

□立ちくらみやめまいを起こしやすい

□立っていると気持ちが悪くなる。酷くなると倒れることも

□入浴時、あるいは嫌なことを見聞きしたときに気分が悪くなる

□少し動くと、動悸や息切れがする

□朝、なかなか起きられず、午前中ずっと調子が悪い

2)小症状

□顔色が青白い

□食欲がない

□時々、強い腹痛がある

□身体がだるい、あるいは疲れやすい

□しばしば頭痛が起こる

□乗り物に酔いやすい

大症状1+小症状3,大2+小1,大3 以上で、他に身体的疾患が認められない場合には起立性調節障害と診断されます。

 

立ち上がったときに目の前が真っ暗になる「眼前暗黒感」や、ぐらぐらとするめまいは、特に午前中や春から夏にかけてよく起こります。これには血圧が下がりやすくなることが関係しています。

起立性調節障害の症状は午前中に強く、午後には軽減する傾向があります。そのため、夜眠れずに起床時間が遅くなるという悪循環に陥ることもあります。また、これらの症状で学校に行くのが困難となることもあり、不登校の子どものうち約30~40%に起立性調節障害の症状があるともいわれています。また、勉強に集中できなくなり、記憶力も思考力も低下するため、知識を覚えようと思っても覚えられなくなることもあります。集中力が低下するというと、生活に大きく影響するようにも思えますが、実は全ての集中力が保てなくなるわけではありません。例えば、勉強はすぐに飽きてしまうのに、ゲームを一度始めるとなかなかやめないという子どもも多いのではないでしょうか? それは脳の構造、特に脳に栄養を送る血管が異なることによって起こる現象と考えられます。勉強など思考作業する時は、主に脳の前のほう、ゲームをする時は主に脳の後ろのほうを使うのですが、脳の前のほうと後ろのほうでは血流を担当する血管が異なっているのです。脳の後方の血管は比較的真っすぐですが、脳の前方にある血管の走行は蛇行し、距離も長く、血流が低下しやすい形状になっています。このことが勉強する時の集中力の下がりやすさにつながっていると考えらえます。

起立性調節障害の色々な症状は成長過程で一時的に現れる現象で、数年間続くことがありますが、身体の機能が成長するにつれて徐々に少なくなっていく傾向があります。ただし、一部の女児では成人後も症状が残ることがあります。基本的には健康な成長の過程で起こる症状ですので、軽い場合には何も治療が必要ないことが多いです。しかし、中等症から重症になると、日常生活にも支障を来し、不登校につながることもあります。学校を長期欠席する重症例では社会復帰に2〜3年以上を要することもあるので、早期の発見と治療が必要です。

起立性調節障害の治療は生活改善が基本です。めまいが強い場合や頻繁に起こる場合は血圧を上げる薬などを服用する薬物療法もありますが、補助的なものと考えた方がよいでしょう。運動すること、水分をしっかりとること、睡眠リズムを整えること、この3つを継続することが大切です。

 

起立性調節障害の対策

□軽めの運動(15分〜30分程度の軽いウォーキング)やストレッチで血流を促しましょう。

□夜更かしせず規則正しい生活を送りましょう。

□朝日を浴びて体内時計を整えましょう。

□ぬるめのお風呂でリラックスしましょう。

□寝る前にスマホやパソコン、ゲーム機などを操作しない。

寝る1時間くらい前からは控えるようにしましょう。

□水分や塩分の摂取(1日1.5〜2Lの水分)を心がけましょう

 

起立性調節障害は、いまだに認知度が低い疾患です。しかも、その症状から「怠けている」「頑張れば治る」などと勘違いされ、適切なケアを受けていない子どもたちが多くいます。子どもたち自身も、「学校に行きたいのに行けない、勉強が遅れてしまう、自分はこれからどうなるのだろう」などの不安やつらさを感じ、悩んでいます。

「うちの子も、もしかしたら……」と思い当たることがあれば、まずは、小児科で相談しましょう。もちろん、めまいセンターでも相談可能です。もし、起立性調節障害と診断されても、しっかり治療をすれば十分に良くなる病気です。周囲の大人は、病気を理解し、怒らず、焦らずに見守りながらサポートしていきましょう。

  • 心因性めまい

最近、社会が複雑になる中で、心因性疾患が増えています。病院に来る患者さんの約30%には何らかの心因が関与しており、心身症の疑い例や心配状態を含めると、約45%が心身医学的なケアが必要だと言われています。この傾向は子供にも当てはまり、小児耳鼻咽喉科では特に心因性難聴の増加が指摘されています。

心因性めまいでは、めまいや平衡障害だけでなく、聴力障害、視野・視力障害、歩行障害、腹痛、発声障害、不随意運動などの随伴症状が見られることがあります。心因性めまいの特徴は平衡機能検査で立ち直り反射が極端に悪いことです。心因性めまいが疑われる場合、原因の解明が必要です。患者の性格分析や社会的心理状況の分析のため、色々な心理検査が行われます。

小児心因性難聴では高い内罰傾向(自分が悪いと思う)や個人的不安定状況(情緒不安定)が特徴的です。心因性めまいでも同様に高い内罰傾向、低い外罰傾向(他人が悪いと思う)が認められ、依存性が高い傾向があります。社会的心理状況では学校での友人関係に問題があることが多く、治療としては心因の解明が最も重要です。専属の心理治療者とのチーム医療を行い、患児の心理状況の理解や日常的な態度の指導を通じて、治療結果を良好にすることができます。

  • メニエール病

小児のメニエール病は稀で、メニエール病全体の0.4~7%くらいです。この病気はめまいや耳鳴り、難聴が主な症状ですが、子供の場合はめまいが短時間で、聴力の障害も軽度で回復することが一般的です。ただし、中には難治性の症例も存在します。治療としては、利尿剤(イソソルビド)や内耳の循環を改善する薬が使われます。最近では、ストレスとメニエのール病の関連性がわかっており、中には小学生が中学受験を契機に発症する例も報告されています。このような場合、めまいや聴力低下が難治性になることもあり、通常の薬物療法に加えてストレス回避などの心理的な治療が必要になります。

 

これで、小児のめまいのコラムを終わりますが、子供のめまいは、診断、治療ともに難しいことも多く、正確な診断ができる施設は限られているのが現状です。もし、お子さんがめまいを訴えることがあれば、ぜひ、めまいセンターを受診してみてください。

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