<コラム22> ハント症候群
Ramsay-Hunt 症候群(以下、ハント症候群)とは、①耳介帯状疱疹(耳やその周辺の痛み、発疹)②顔面神経麻痺(顔の筋肉が動かしにくくなる)、③第8脳神経症状(難聴、めまい)の三主徴を伴う疾患です。呼称はJames Ramsay Huntが1907年に自分が経験した症例をまとめて報告したことに由来しています。原因は水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)です。このウイルスは、子どもの頃にかかる「水ぼうそう」の原因でもあります。水ぼうそうにかかった後、ウイルスは完全には消えず、顔の神経(膝神経節)に潜んでいることがあります。後年それが再活性化することで神経に炎症が生じ、腫脹した神経が周りの骨で圧迫されて顔面神経麻痺を起こします。加えてその周りの神経にも波及し、耳介の発赤・水疱形成や耳痛、難聴、めまいなどを合併する特徴があります。
その症状は軽いものから重症なものまで様々で、稀に下位脳神経炎(神経障害)や脳炎を起こす重篤なもの。難聴やめまいなどがなかなか治らないもの。逆に顔面神経麻痺だけで、比較的治りやすいBell麻痺(原因不明の顔面神経麻痺で単純ヘルペスウイルスが関与することが近年明らかになった)と鑑別が困難なものや、三主徴のそろわない不全型Hunt症候群も多く存在しています。
James Ramsay Hunt (1874 – 1937)
主な症状
- 顔面神経麻痺
– 一側の顔の筋肉が動かなくなる。
– 口角が下がる、目が閉じにくくなるなど。
- 耳周辺の症状
– 耳の痛み(耳介神経痛)。
– 耳の中や耳周囲に水疱状の発疹ができる。
- 聴覚・前庭の異常
– 耳鳴りや聴覚過敏。
– めまいや平衡感覚の異常。
- その他の症状
– 味覚異常や涙・唾液の分泌低下。
治療方法
顔面神経麻痺については、初診時の麻痺スコアが8点以下(片方の顔がほぼ完全に動かない)、もしくは発症から治療開始までの期間が6日以上の症例では治りが悪くなるので、発症早期の十分な量の抗ウイルス剤の投与と副腎皮質ステロイドの効果的使用が必須となります。
- 抗ウイルス薬
ウイルスの増殖を抑える目的で、アシクロビル、バラシクロビル、アメナメビルなどが使用されます。発症からできるだけ早期(72時間以内)に開始することが重要です。
- ステロイド療法
炎症を抑え、神経の回復を助けるためにプレドニゾロンなどのステロイド薬が併用されます。
- 鎮痛薬
耳や顔の痛みを緩和するために使用されます。強い痛みがある場合、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や神経障害性疼痛用薬が処方されることがあります。
- 理学療法
顔面神経麻痺のリハビリテーションとして、表情筋の運動を行うことが推奨されます。
- その他の治療
重症例では、神経保護のための追加療法や入院管理が必要な場合があります。
予防方法
- 帯状疱疹ワクチン
近年、帯状疱疹を予防するワクチンの効果が注目されています。ハント症候群も帯状疱疹の一種であるため、ワクチン接種によって発症を予防したり、重症化を防いだりすることが期待されています。特に50歳以上の方は医師に相談することをおすすめします。
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免疫力の維持
バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠で免疫力を高めることや、ストレスを減らし、生活リズムを整えることが大事です。
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水ぼうそうに感染したことがある人は、体調不良や耳周辺の違和感を感じた時には、早めに医療機関を受診することが大事です。
経過と予後
適切な治療を早期に開始すれば、多くの患者は数週間から数ヶ月以内に症状が改善します。ただし、重症例や治療が遅れた場合、顔面神経麻痺が完全には治らなかったり、慢性的な痛み(帯状疱疹後神経痛)が残ったりすることがあります。
まとめ
ハント症候群は早期診断と治療が重要な病気です。症状が現れたら、迅速に医療機関を受診し、適切な治療を受けることで、予後を改善する可能性が高まります。また、予防のためにワクチン接種や生活習慣の見直しを行うことが有効です。何か自分でおかしいなと感じたら、堀病院めまいセンターに相談してください。
参考文献
1) Hunt JR,J Nerv Ment Dis 34: 73-96, 1907
2) 乾 崇樹, 他,Facial N Res Jpn 28: 158-161, 2008
3) 櫟原崇宏, 他,Facial N Res Jpn 33: 2012(印刷中)
4) 日本顔面神経研究会編,顔面神経麻痺診療の手引き-Bell麻痺とHunt症候群-, 金原出版,2011,東京
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